No.127_フレンチシェフに共感する素材選びの大切さ(①/②)
今回のテーマは“素材選びの大切さ”です。コーヒーにおける素材は、焙煎前の生豆ということになりますが、良質な生豆を使わないことには、良質な(美味しい、魅力的な)コーヒー豆は作れませんので、僕(焙煎をする者)にとっては、とても大切なテーマです。
この素材というものは、料理の世界で言えば食材ということになると思いますし、宮大工の世界では木材、陶芸家の世界では土という様にそれぞれの世界にそれぞれの『素材と向き合う』ということが存在するのではと思っています。そしてそれぞれの世界の人たちが素材をどう捉えて取り組んでいるのかとても興味があります。
そんな興味から関連する書籍を読んだり、ネット、YouTube、テレビ番組なんかも見ているのですが、とりわけフレンチシェフの世界には『なるほど〜』、『そうなのか〜』と焙煎の世界からも大いに共感できる事柄や多くの“気付き”を頂きます。
以下、フレンチシェフが何人か登場しますが、導入部は三國清三さんになります。
三國さんの著書の中に『料理を作ることは、素材を尊重し、その産地や生産者にも敬意を払いながら、素材本来の持ち味を引き出してあげること』とありました。その思いに至るまでには三國さんが1980年27歳の頃、フランスでアラン・シャペルさんのお店で修行していた際のシャペルさんの行動、お話から大きく影響を受けたとのことでした。
アラン・シャペルさん(1937-1990)は、『料理界のダ・ヴィンチ』と称される方です。そんなシャペルさんは、毎朝6時から自身でジープを運転し、地元の市場や農家、食肉生産者を回り、素材を仕入れた後、10時半頃店に戻り、揃った素材に応じて当日のメニューが決められて行ったそうです。近隣生産者を大切にし、常に感謝と敬意を持って付き合うことにより、生産者の方々も最高の素材を先ずはシャペルさんへと優先的に提供してくれたそうです。
因みにホテルオークラ初代総料理長小野正吉さんもその著書の中で『料理は材料4:道具2:技術4の割合で成り立っていると思います。良い材料を選ぶこと、孫の代まで使えるような良い道具を使うこと、料理の技術を磨くとともに料理に対する愛情とセンスを養うこと、このどれが欠けても、料理の上達は望めません』とおっしゃっています。
そして三國さんはシャペルさんから、こんな言葉も頂いたそうです。
『料理は節度ある行為でなくてはなりません。繊細な感性と慎み深い態度で望むのです。全てを決めるのは食材自身で、料理人は自然の恵みを学び続けるアプランティ(弟子)なのですから』と。うーん、実に奥深い、示唆に富んだお話です。焙煎に於いても焙煎人が「こんな風味にしてやろう」なんて勝手な思いで、焙煎度やその進行を決めて行くものではありません。あくまでも豆種毎に最高の美味しさが引き出される進行を求め、出来上がった豆と対話(風味確認)する日々の積み重ねです。
この辺で紙面が一杯になってきました。次回は素材を選ぶということの本質、そしてそれを焙煎に照らし合わせると...をテーマにしてみたいと思います。
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな生活に“彩り”をお届けします。