No.220_焙煎中、加速度を捉えながら進める火力調整
今回のテーマは焙煎中行っている“火力調整”についてです。言い換えると焙煎の“進行管理”です
時々、お客さまから(店内の焙煎機を指差して)「アレでヤイテるんですか!」、「あれが焙煎機ですか!機関車みたいで重そうですね!」、「あの操作は大変そうですね!」と言ったお声掛け頂くことがあります
焙煎中[やっていること]、そしてその間[思考していること]を端的にお伝えするのは実はなかなか難しいです
と言うのも0.1℃単位で上昇し続けるデジタル温度計(窯内温度を計測しています)と0.1秒単位で経過時間を刻むストップウォッチを両睨みしながら、変化し続けている豆の“今”を把握し、次の+10℃後、その次の+20℃後、さらにその先までの「こう進捗しなければならない」を見据えながら微調整し続ける作業なものですから...
こうお伝えしてもきっと、何のこっちゃ?ですね(苦笑)。と言うわけで、今回は[温度]と[火力]に絞ってお話を進めていきます
因みに焙煎というの100℃以下の温度から200数十℃まで、上昇し続ける温度の中でヤイテいきます(鍋料理の弱火で何分みたいな、同じ火力、同じ温度でヤキ続けるわけはありません)
その上昇し続ける温度も経過時間に対して直線的に上がっていくわけではなくて、緩やかなフェーズもあれば、急なフェーズもあります
この[緩やかな]と[急な]は、ヤイテいると自然と「そうなる」のではなくて、意図的に「そうしている」ことによります
今回のテーマ“火力調整”に話を戻すと、火力調整には大別すると“①動かす火力調整”と“②合わせる火力調整”があります
①動かす火力調整
これは前述の通り、意図的に操作する火力調整で、全ては「美味しい豆づくりのために」行っていることです。この操作は基本的に10℃上昇毎に意図的に行います。この時の動かす火力は同じ豆種の前回のログ(履歴)を頼りに行います(豆種毎に全て異なります)。この10℃毎に動かす計画火力は、開店以来数千回ヤイテきたログとヤカレた豆のカッピング(≒味見)から微修正を加え今に至っているメソッド(手法)です。例えば直前の10℃間は30目盛という火力(この目盛数値は単位のない火力スケールと捉えてください)でヤイテいたものを、165目盛の火力にし、+10℃後25目盛にして、さらに次の+10℃後は12目盛にして...のようにかなりドラスティックに(思い切って)操作して行きます
②合わせる火力調整
こちらは①の操作をしていく過程で目指す進捗秒数から数秒のズレ(進みor遅れ)が生じた時、このズレを補正していく作業です。前述の例で165目盛で進捗させた後、10℃上昇後の経過タイムが目標値より仮に6秒早かった場合、次に操作する火力は計画値25目盛より2下げて23目盛に合わせる様なことを行います
この時、大切にしている感覚は単に「早く進んだから火力を下げる」という単純な操作ではなく、10℃毎に進捗中の「加速度を体で捉えながら操作していく」というものです。目標タイムより6秒早く進捗したということはプラス6という上昇加速度が作用している状態と捉えます。次の10℃の間、2目盛火力を下げて、仮に目標経過タイムに合わせられた場合、その10℃の間は目標タイムより意図的に6秒遅らせたので、マイナス6と言う減速加速度作用状態にあったと捉えるわけです。そうなると次、操作する計画火力12目盛はマイナスの加速度が働いている状況下での操作なので、定常時12目盛に合わせるところ、その時支配されている減速加速度状況が引き続き作用すると推察して、1目盛高い13目盛に合わせて経過を注視する...みたいなことを体で感じながら操作しています。
因みにこの加速度は、焙煎機の窯を覆っている鋳物(鉄の塊)部分の蓄熱状況が作用しています(上記の例だとマイナス6秒減速させるため、その間の火力を意図時に下げたので、定常時より窯を覆う鋳物部分もほんの僅か冷めた状態になり、これが次のフェーズにマイナスの加速度として作用します)
書いているうちに思わず勢い余ってマニアックというか、熱い職人域に突入してしまいました(苦笑)。後段の[減速加速度作用状態]と言うのは、例えば電車に立って乗っている時、次の停車駅手前で急に減速し始めると体が少し前のめりになる、あの状態です
冒頭、焙煎中[やっていること]、そしてその間[思考していること]を端的にお伝えするのは実はなかなか難しいいですとお伝えした通り、もしかしたら詳細迄は伝わらなかったかもしれませんが、「いろいろ考えながらヤイテいるのね!」の感触だけでもお伝え出来れば、ご紹介した甲斐がありました^^;
焙煎は、メソッドを基に五感と勘をフル回転させる、「豆との対話の時間」です o(^-^)o
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな暮らしに“彩り”をお届けします