No.242_とっても微妙な煎り止め

焙煎は生豆投入から20数分で終了しますが、窯から豆を取り出す瞬間を“煎り止め”といいます。また、その時の窯内温度を“ロースティングポイント(煎り止め温度)”といったりします

このロースティングポイントは豆種それぞれに1℃単位で定めています。というのもたった1℃変えるだけで風味に微妙な変化が生まれるからです。パッと明るさが増したり(逆にトーンが落ちたり)、ぐっと甘さに包まれる感じがでたり、マウスフィール(口当たり)が滑らかになったり(またその逆も)。それはまるで、写真撮影の露出を一段階変えるような繊細さです

豆が窯から出される瞬間、その温度は200℃を超えています。それを次に冷却器と呼ばれる丸いタライ状の装置に移し、攪拌しながら冷やします。冷却器底には直径4mmほどのパンチング状の穴が全面に開いており、その下部に接続された吸気ダクトから空気を吸い込むことで冷却します。つぶやきNo.167でその仕組みを写真付きでご紹介していますが、ざっくりいうと「冷風ドライヤーで風を当てて冷ます」ようなイメージでしょうか...

前述のロースティングポイント1℃の違いによる風味を再現し、検証できるのもこの精度の高い冷却システムあってのことです。つまり毎回同じ重量の豆を、同じ冷却器で、同じ風量、同じ回転速度で攪拌しながら冷ます。その“同条件”が味の安定を支えてくれています

ところで、この説明を聞いて、「ん?ちょっと待ってよ?」と、疑問を抱かれた方はいらっしゃいますか?

先ほど、「そこへ吸い込まれる空気の流れで冷やされる」と書きましたが、その空気とは焙煎機のある部屋の空気です。その空気の温度、つまり室温は夏は30℃を超え、冬は10℃前後になります。先ほど「冷風ドライヤーで冷ますようなもの」と言いながら、その冷風が夏と冬では20℃も温度差があるのです

当然、夏より冬の方が早く冷めます。前述の通り、窯から出した直後の豆の温度は200℃以上ありますので、冷却前半はまだ“ヤキ”が進行している状況です。ですから、この冷め切るまでの時間に差が生じるというのは出来上がる豆の風味の観点からもよろしくありません

そこでどうするか...

「夏の方が冷却に時間を要するということは、“ヤキ”が若干深く進むということなので、窯から出す温度(ロースティングポイント)を1℃程度、季節のどこかのタイミングで下げる必要があるかもしれない」という仮説を立て、それをカッピングでチェックするということを継続して行なっています。そして実際その対処(ロースティングポイントの微調整)をしています

これは「6月1日から1℃下げよう」みたいな決めごとではなくて、味覚を頼りにした仮説検証の世界です

焙煎...結構、微妙な世界なんです^^

 

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