No.289_コーヒー産地“🇸🇻エルサルバドル”
この“店主のつぶやき”では、「コーヒー産地シリーズ」として、コロンビア、エチオピア、インドネシア、ブラジルをご紹介してきましたが、今回は中米の“小さなコーヒー王国” エルサルバドルがテーマです
まずエルサルバドルという国ですが、中米に位置し、国土は日本の四国より少し大きいくらいの、中米の中で最も小さな国です。地理的な特徴としては、中米諸国の中で唯一、太平洋側だけに面しており(カリブ海に面していない)、国土には数多くの火山が連なる、世界有数の“火山国”でもあります
太平洋からの温かく湿った空気が山地にぶつかることで、コーヒー栽培に適した雨や霧をもたらし、標高の高い地域では適度な寒暖差も生まれます。加えて、火山性のミネラル豊富な土壌も相まって、素晴らしいコーヒーを育む舞台が整っています
コーヒーの歴史という観点から見ると、エルサルバドルには少しドラマチックな背景があります
エルサルバドルでコーヒーの商業的な生産・輸出が本格化したのは1850年代のこと。その後、1970年代には、世界第3位の生産国、第4位の輸出国へと成長し、「小さなコーヒー王国」とまで呼ばれるようになりました
しかし、1979年から13年間に及んだ激烈な内戦により農地は荒廃し、その生産量は激減してしまいます。さらに2012年から2013年に掛けて蔓延した“コーヒー葉サビ病”(葉にさび色の斑点が広がり、光合成能力を低下させて樹勢や収量に大きな影響を与える伝染病)の影響もあり、生産量はピーク時の10分の1にまで落ち込みました
また、近年も移民流出による深刻な労働者不足、肥料や資材の高騰、エルニーニョ現象による気候変動などが重なり、かつてのような生産量復活への道のりは険しく、現在の生産規模は世界20位前後にとどまっています
大きな痛手を残した内戦ですが、実はコーヒーの「品種」においては、思いがけない奇跡を生むことにもなりました
エルサルバドルの主要な品種のブルボン種はアラビカ種を代表する伝統的な品種で、風味は非常に魅力的なものの、耐病性、耐候性が低いという弱点を持っています。そのため、(エルサルバドルが内戦下にあった)1980年代以降、世界の他の産地では、その弱点を克服するための品種改良(病気に強く、樹高が低くて収穫しやすい高収量品種の開発)が盛んに行われていきました
そうして純粋なブルボン種がどんどん失われていきましたが、時代の混乱の中でその波に乗らなかったエルサルバドルには、今も貴重なブルボン種が多く残っています。さらに、ブルボン種の自然突然変異種パカス種が生まれたのもエルサルバドルです
そしてそのパカス種(Pacas)とマラゴジッペ種(Maragogipe、ブラジルで発見されたティピカ種の自然突然変異種)を人工交配して生み出された品種が、
パカス(Paca)+マラゴジッペ(Mara)=パカマラ(Pacamara)です
エルサルバドル国立コーヒー研究所(ISIC)で1958年に始まった研究は、長年の選抜と評価を経て1980年に初めてリリースされ、1990年代に世界へと広く知れ渡りました。パカマラ種は、手元で見るとびっくりするほど大粒の豆(通常の豆の約1.5倍ほど)で、トロピカルフルーツや熟した果実、花やハーブを思わせる、華やかで複雑な風味を引き出す素晴らしいポテンシャルを秘めています。
現在のエルサルバドルは「量」を追うのではなく、ブルボン種やパカマラ種といった高品質な「スペシャルティコーヒー」の生産(量より質)へと舵を切り、世界中のバイヤーから高い評価を受ける独自の地位を築いています
では、エルサルバドルのコーヒーは、どんな味わいなのでしょうか
もちろん産地、品種、精製方法などによって違いはありますが、伝統的なブルボン種の魅力を一言で表すなら、「包み込むようなやわらかな甘みと、驚くほど滑らかな口当たり」です
チョコレートやキャラメルのような質感のある甘みに、上品で優しい酸味がバランスよく寄り添います。クセが少なく、飲み進めるほどにホッと心が和むような美味しさです
生産国の歴史や地形、品種の成り立ちに思いを馳せてみると、目の前の一杯に詰まった物語がより鮮やかに見えてくるから不思議です。 太平洋の風と火山の恵み、そして時代に翻弄されながらも伝統を守り抜いてきた人々の情熱が育んだエルサルバドルのコーヒー
ぜひ、そのやわらかな甘みと澄んだ余韻を、どうぞゆったりとお楽しみください
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな暮らしに“彩り”をお届けします
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