No.291_「味は半分、見た目半分」そして、引き算の思想

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、僕が好きな番組の一つです

ただ、リアルタイムで観られないことも多いので、録画しておいて、気の向いた時にゆっくり観るようにしています。そんなこともあって、放送から数ヶ月経っていますが、少し前に『人生ラーメン、遠回りのスープ』という回を観ました

その番組の主役(プロフェッショナル)は、香川県のラーメン店主、森敏彰さんです

一言で言えば、「美味しいラーメンをお手頃な価格で提供し、今では地元の常連さんが行列を作るラーメン店の店主」となるのでしょうが、そこに至るまでのプロセスや葛藤、そして、今なぜ多くのお客さまに支持されているのか...そんなことまで垣間見える、とても興味深い内容でした

中でも特に印象に残ったのが、森さんが語っていた、「味は半分、見た目半分」という言葉です

森さんの言う「見た目半分」というのは、単に料理の盛り付けのことではありません。店主である森さん自身の笑顔あふれる接客、店の雰囲気、清潔感、それら全てを含めた“店を包み込む空気感”を『見た目』と称し、それが店に入った瞬間から感じる心地よさにつながっているのだと感じました

一方の「味は半分」も、決して味を軽視しているわけではありません。美味しいものを作り続けることに全身全霊を尽くした上で、「それだけではまだ足りない。同じくらい“店を包み込む空気感”も大切なんだ」と伝えているように僕には聞こえました

実は僕も、日頃からこれに近い思いで「いろどりこーひー」に取り組んでいます。自分が大切にしてきた漠然とした思いを、森さんが見事に言語化してくれたような感覚でした

そしてもう一つ、

美味しい究極のスープを作るために森さんが辿り着いた『引き算の思想』です

美味しいものを作ろうとすると、ついつい何かを「足そう」と考えてしまいがちです森さんもかつては、高級な食材や珍しい素材を次々と足していく方法を取っていました。しかし、「それでは素材同士が喧嘩してしまい、本当に表現したい“飽きない美味しさ”には届かない」と気づいたことが、『引き算の思想』へ転換するきっかけとなったとのことでした

そして、かえし(タレ)の主張を極限まで抑え、ラードや香味油を極力減らし、口当たりをどこまでも軽くする。鶏ガラや豚骨、魚介などの厳選した素材を、濁らせないよう弱火でじっくりと煮込む。さらにアクや雑味を徹底的に取り除いて、「これ以上何も引けない」という純度の高いスープに仕上げていくのだそうです

この足し算しない、少しのブレも許されない非常に難易度の高い製法にたどり着いたことで、「水のように体に染み渡りながら、喉を通った後に素材の圧倒的なコクと余韻が残る」という、森さんならではのラーメンが完成しました。そしてお客さまからは、“琥珀色のスープ”の愛称で親しまれ、朝ラー(朝6時から8時まで提供される、一杯500円のラーメン)は、地元の常連さんが、『朝一番の澄んだ空気の中で、極上のスープをすすって、1日をスタートさせる!』そんな食文化として根付き始めているとのことでした

この『引き算の思想』は、いろどりこーひーでのブレンド作りや焙煎にも深く通じるものがあります

例えば『ゲデブナチュラルが持つ、際立つストーンフルーツ感を生かしたブレンドを作りたい』と考えた時、必ずしもゲデブナチュラルをたっぷり使うことで、魅力的なブレンドが出来るとは限りません。むしろその良さは『長く心地よく続く余韻を繊細に担ってもらう』そんな合わせ方が僕は好みです

また、個性(風味キャラ)が際立つ2種類のシングルをブレンドする際も注意が必要です。まさに森さんの言葉にもあった『素材同士が喧嘩する』の現象が起きがちだからです。ブレンド作りで何よりも重視することは、バランスです。これが取れているとき『心地よいラウンド感』と表現される、丸みのある魅力的なブレンドが出来上がります

焙煎もブレンド作りも、「何かを足して美味しくする」というより、「豆が本来持っている良さを引き出すため、邪魔するものを削ぎ落とす」、「本当に大切な味わいを際立たせるために、余計なものを丁寧に取り除いていく」、根底にあるのはまさに森さんがおっしゃる『引き算の思想』です

今回は、テレビ番組から得たインスピレーションのおはなしでしたが、本を通して得られることもありますし、いろいろな場面、いろいろな人との出会いの中に、仕事、生き方について考えるきっかけはあるものです

そして僕にとっては、何よりも、お客さまとの対話の中でいただくインスピレーションが大切です。何気ない一言に、気づかされること、勇気づけられることが日々あります

そんな小さな気づきを一つずつ積み重ねながら、これからも、いろどりこーひーらしいコーヒー豆を作っていきたいと思っています

 

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