No.214_生豆精製における発酵段階
前回のつぶやきNo.213では、生豆が出来上がるまでの3種類の精製方法について、概略ではありますが、ご紹介させて頂きました
今回はその中でも②ウォッシュドの発酵段階をもう少し掘り下げてみたいと思います
かく言う私もコーヒー豆産地には行ったことがないものですから、以下の内容はそれに詳しい方から教えて頂いた内容、そしてそれに加えて書物等で調べた内容になります。この発酵過程がコーヒーの風味に与える影響と言うのがとても興味深いので、ここにご紹介させて頂きます
以下の内容、少々細か過ぎるきらいもあるので、先に要約をお伝えすると...
『コーヒーノキの果実を2〜3日水槽に漬けると、その間、微生物が果肉の糖分を栄養に、アルコール(揮発性化合物)や酸を生成し(これが発酵です)、その成分が種子(コーヒー生豆)にフルーティなアロマや滑らかな甘みをもたらします』
ここで今一度、ウォッシュドのお浚いですが...前回つぶやきNo.213で以下のように記載しました
『赤い実を皮剥き機(パルパー又はミューシレージリムーバー)でザッと剥いてから、水槽(発酵槽)に2〜3日漬けた後、水の流れる側溝で揉むように果肉を綺麗に落として、殻の状態で約2〜3週間天日干し(殻付きのギンナンを乾燥させるようなイメージです)。因みにミューシレージとは果肉のヌルヌルした部分のことです。発酵槽での発酵を通して、果肉のフルーティさが種子(コーヒー生豆)に取り込まれます』
今回はその中の「発酵槽に2〜3日漬ける」フェーズのお話です
この間、発酵槽内の微生物の活動は時間経過に伴い、今回添付したグラフ(増殖曲線)の様な経路を辿ります
❶ラグフェーズ(Lag Phase、遅延期、遅滞期、誘導期、発酵準備段階)
次の❷ログフェーズで分裂開始するための準備、誘導段階で、この段階では微生物(細菌)分裂はまだ起きていない。微生物がコーヒーの実の果肉に含まれる糖分を栄養として、酸を生成し始め、徐々にpHレベルを下げていく(酸性化していく)。この環境がコーヒーのフルーティさをもたらす上で重要な役割を果たす
❷ログフェーズ(Log Phase、対数増殖期、指数関数的成長期、風味強化)
微生物が分裂を開始し、増殖を始める。最初は緩やかに増殖するが、次第に対数的に増殖が進む。並行して果肉部の化学変化が大幅に促進され、揮発性化合物(エステル類、アルデヒド類等)や酸類等、香り成分が生成されてくる。この段階をゆっくり長く持続させることが、コーヒーの風味特性を際立たせるために重要。そのため生産者は温度、pH値を管理して、このフェーズの状態と時間をコントロールする(温度を上げると進行が早まり、pH値が下がる。温度を下げると進行が緩まり、pH値が上がる)
❸定常フェーズ(Stationary Phase、固定相、静止期、バランス調整)
このフェーズでは、微生物の活動も安定(分裂率と死滅率が均衡)し、酸味と甘味のバランスを取る微妙な調整が行われる
酸味の観点ではクエン酸やキナ酸といった酸が生成され、これがコーヒーに明るさやシャープな風味をもたらす上で重要な役割を果たす
甘みの観点では糖が代謝され、これが甘みの質感を生み出し、マウスフィール(口あたり)の良いコーヒーに繋がる
この甘みと酸味のバランスが取れたとき、コーヒーは非常に複雑でありながらも一貫性を持つ味わいを持つようになる
❹デスフェーズ(Death Phase、死滅期、風味保持)
このフェーズでは、微生物の活動が低下し、発酵が徐々に終息していく。更に進行するとオフフレーバー(香りが抜ける)や更には腐敗やカビの発生にも繋がるので、この段階の終了の見極めはとても重要
と言うわけで、発酵槽に漬けると言うのは、果肉をふやかして剥きやすくすると言った単純な作業ではなく、とってもデリケートで複雑、そして大切なフェーズだったんですね
以上、今回はウォッシュド精製における発酵槽での発酵プロセスをご紹介しましたが、実はナチュラル精製、パルプドナチュラル精製でも乾燥段階初期に発酵が作用して、前述の様な風味形成に大きく関わっています
こうして生豆の生産過程に思いを馳せると、それがお客さまに届く前の“焙煎”という工程を担うものとして、重責を感じます。そこでダメージを与える様な焙煎は絶対にしてはいけない。その生豆が持っているポテンシャル(美味しさ)を最大限に引き出して、お客さまにお届けしなければならない!そう思いながら日々、焙煎に取り組んでおります
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな暮らしに“彩り”をお届けします